春闘(春季生活闘争)のデータを見るときに知っておきたい用語を解説します。
「ベースアップ」、略して「ベア」とは、個別賃金水準を引き上げることです。簡単にいえば、賃金表の書き換えです。一方、「定期昇給」とは、前任者(先輩)に追いつくために必要な個人別の賃金の上昇のことをいいます。簡単にいえば、賃金表上の移動です。
例えば、34歳の人の賃上げは、「34歳→35歳の定期昇給+35歳のベースアップ」となります。定期昇給が制度化されていない場合、定期昇給に相当する部分を交渉で確保しなければ、個別賃金水準が低下することになります。
年齢や勤続年数がまちまちな職場の仲間の賃金を、年齢や勤続年数の順に並べてみます。すると、年齢や勤続年数が増えるにつれて賃金も上がっていき、ほぼ右肩上がりの曲線が描かれます。この、賃金の上昇具合をあらわす曲線のことを「賃金カーブ」といいます。
賃金カーブは、年齢と勤続年数にともなって仕事のスキルが上がる一方、子供の教育費なども含め生活費が上昇することに対応しているもので、一般に年功カーブともいわれています。この背景には、スキルアップと生活の変化に対応しながら、長期的な雇用関係全体を通じて賃金を支払うという日本的なスタイルがあります。
働く側にとっては安心して将来の生活設計をもつことができ、経営サイドにとっても安定的な人材確保と企業内教育を通じた労働生産性の向上が図れるという、双方のメリットがこうした仕組みを支えてきました。
賃金制度の整備が進んでいる企業では、定期昇給制度などにより賃金カーブを維持することがほぼ制度化されています。しかし、そうした企業は少数派です。厚生労働省の調査では、中小企業の約半数は賃金表がないと答えています。その場合、賃金カーブを維持するには、毎年の賃上げ交渉のなかでカーブ維持に必要な昇給分を確保しなければなりません。
近年は賃金制度を見直す企業の動きもみられますが、どんな賃金制度になったとしても家族を含めた生活費を補填するだけの賃金水準は確保される必要があるため、賃金カーブの意義は基本的には変わっていません。
「平均賃金」とは、1人ひとりの賃金の合計額を人員で除した賃金水準のことです。一方、「個別賃金」とは、「高卒35歳、勤続17年、生産職」というように、労働(力)の銘柄を特定したときの賃金水準をいいます。
平均賃金は、賃金の労務コストの側面を色濃く反映する指標です。一方、個別賃金は、労働(力)の質を考慮して賃金比較をする際に有効な指標です。1人ひとりの賃金水準の社会的な位置を確認するためには、個別賃金による比較が欠かせません。
組合員の平均賃金をいくら引き上げるか、つまり1人平均の労務コストをもとに交渉する要求方式です。1人ひとりの新賃金は、賃上げ妥結後に行われる賃上げ配分によって決まります。
日本の賃金交渉では長くこの方式が主流でした。また、この平均賃上げ要求の多くが、定期昇給分込みで行われてきました。単組ごとに異なる定期昇給分を盛り込んでいるため、定昇制度がない組合でも要求をつくりやすい反面、どんぶり勘定的にならざるを得ないという欠点があります。現在は賃上げ回答が低迷するなかで、着実なベースアップ分の獲得が求められています。
銘柄を特定した個別賃金水準の改定について交渉する要求方式です。産業別・職種別労働組合が主流の欧米では、この方式によって賃金交渉が行われています。この方式では、個別賃金をまず決定し、その結果として平均賃金が算出されるという関係になります。
新卒で入社して、ずっと勤めてきた人の特定の年齢ポイントを基準に要求する「標準労働者方式」、職種とその熟練を基準に、あるいは特定の資格を基準に要求をする「職種別一人前方式」などがあります。
「個別賃金方式」には2種類あります。特定の労働者(たとえば勤続17年・年齢35歳生産技能職、勤続12年・年齢30歳事務技術職)の前年度の水準に対して、新年度に該当する労働者の賃金をいくら引き上げるか交渉するのが「A方式」で、また特定の労働者(たとえば新年度勤続17年・年齢35歳生産技能職)の前年度の賃金に対し、新年度(勤続と年齢がそれぞれ1年増加)に定期昇給を含めていくら引き上げるかを交渉するのが「B方式」です。なお、連合ではこのA方式の賃上げ額を「純ベア」と定義しています。
1つ目の理由は、まず「定期昇給」についてしっかり交渉するためです。定期昇給に代表される賃金カーブの維持は、経営責任として行うべきことであり、その職場のルールを守ることなのだということをきちんと主張するために、「定昇相当分」を明確にしていく必要があるのです。
もう1つの理由は、「純ベア」交渉を有利に進めるためです。労働組合は、組合員のがんばりを認めることや、適正な業績の配分を要求します。それに対応するのが「純ベア」であり、そこを明確にすることによって交渉力を強められるのです。
「単純平均」は、各組合の賃上げ額を単純に足して平均値を集計する方法で、「1組合あたりの」賃上げ額の平均がわかります。
一方、「加重平均」とは、賃上げの影響を受ける組合員の数を計算に反映させ、実際の賃上げ額の平均を算出する方法で、「組合員1人あたりの」賃上げ額の平均がわかります。金額ごとに人数をかけることを統計学で、加重(ウエイト)というため、このような呼び方をします。
A、Bの2つの組合の賃上げ額、組合員の数が次のとおりだったとします。
この場合、単純平均と加重平均は次の値です。