会長挨拶

 
2024年10月3日
連合第93回中央委員会 会長挨拶

日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子

<はじめに:髙木顧問の追悼>

 皆様、おはようございます。中央委員、役員、顧問・参与、関係団体、傍聴の皆様、そして報道機関の皆様、本日はご多忙の中、ご参加いただきありがとうございます。連合第93回中央委員会の開会にあたり、ご挨拶申し上げます。
 はじめに、髙木剛・元連合会長のご逝去を悼み、謹んで哀悼の意を表します。
 髙木元会長は、2005年から2009年にかけて連合会長を務められ、退任後は顧問として、ご経験を生かして様々な視点から連合運動へのご助言などをいただいておりました。
 髙木会長時代は、折からの構造改革路線の中で「再チャレンジ」や「労働ビッグバン」という労働市場改革が提唱され、「労働に関するルールの柔軟化と称して働き方のルールを混迷させかねない動き」が強まりました。
 さらに、2008年にはリーマン・ショックが発生し、世界が未曽有の金融・経済危機に瀕し、日本では、雇止めや「派遣切り」が社会問題化しました。このような時代背景の中で、髙木顧問は、急速に進む格差社会への大きな危機感を抱き、「STOP! THE 格差社会キャンペーン」を展開するとともに、非正規雇用で働く方々への思いを強くされ、連合本部に「非正規労働センター」を設置し、集中的な対策を進め、格差是正に力を尽くされました。
 一方、連合結成以来の悲願であった政権交代可能な政治体制の確立を、民主党政権の樹立という形で果たされました。
 激動の時代に会長職を担われましたが、そのご功績は、枚挙にいとまがないことは、歴史が十分に証明しているものと思います。柔らかな笑顔の中に、労働運動への厳しくも誠実なまなざしを湛えた髙木顧問の生前のお姿を思い浮かべながら、そのご活躍を称え、志をしっかりと引き継いで参ることをお誓いしたいというふうに思います。

<能登半島の災害について>

 続けて、能登半島の災害について触れたいと存じます。
 能登半島地震からおよそ9ヵ月となる先月21日、記録的な大雨により23もの河川が氾濫し、各所で土砂崩れが発生するなど、甚大な被害が生じました。お亡くなりになられた方もおり、謹んで哀悼の意を表しますとともに、被害を受けた皆様にお見舞いを申し上げます。
 元日の地震を乗り越えて、生活再建へ一歩を踏み出そうとされている方々の生活拠点である仮設住宅へも容赦なく濁流が押し寄せました。「やっと住まいを確保できたのに」「なぜ能登ばかり」という被災者の方々の無念な声が報道を通して伝えられておりますが、あまりの出来事に、被害を受けた方々のご心労を考えますと胸が痛みます。被害を受けた方々へ公私を問わずに、適切なサポートが届き、早急に生活を回復することができるよう様々な立場からの取り組みを心から期待したいと思います。
 連合は、この豪雨災害に対する対策本部を立ち上げ、連合救援ボランティアを展開し、連合石川の被災地支援の取り組みもサポートして参りたいと思います。すべての構成組織の皆様に、今一度、お力をお貸しいただくよう心からお願い申し上げます。どうぞ、よろしくお願いいたします。
 その上で、能登半島地震へのこの間の取り組みについて、単組、構成組織、地方連合会の皆様からのご理解と絶大なるご協力をいただきましたことについても、改めて深く感謝申し上げたいというふうに思います。「同じ災害は二つと無い」と言われることがありますが、そのことを痛切に感じました。地形や街並みや人々の暮らしぶりも異なり、災害の種類や規模も異なるのですから、その組み合わせによって生ずる災害に同じものなど無いことは当たり前であったはずです。しかし、これまでの災害対応の経験が、逆に初動の取り組みを遅らせてしまった面があったかもしれません。臨機応変に、かつ迅速に対応することが、被災した地域の皆様の支えになることを改めて認識し、今般の豪雨災害への対応にもつなげていきたいというふうに思います。
 なお、震災対応の1つとして、被災地での性加害行為対策である緊急避妊薬のデリバリーに関する取り組みを進めて参りました。現地の医療機関や関係者の皆様のご協力のもと具体的な対応フローや運用の仕方、周知方法などが、概ねまとまりました。震災発生から10ヵ月が経過しておりますが、このような被害は復興過程で生じることが過去の災害からも明らかとなっており、今後、この取り組みが被害者の支援に実際につながっていくことになります。
 ただし、この取り組みは、被害が発生せず、運用されることがないということが望ましいものです。この取り組みを広く周知いただくことが、抑止効果にもつながりますので、どうか皆様も積極的に周知いただけることを願いたいと思います。

 さて、本日の中央委員会を境に、第18期の運動は後半戦に入ります。前半期の取り組みに対し、構成組織、地方連合会の皆様よりご理解とご協力をいただきましたことに感謝申し上げます。

<第18期後半期に向けて>

 この1年間を振り返りますと、先ほど触れた能登半島地震へのカンパ活動やボランティア活動など、組織の連帯力を発揮する取り組みや、2024春季生活闘争での賃上げ実現という本来的に労働組合に求められている役割の発揮など、例年以上に労働組合の力を実感した1年でした。
 とりわけ、2024春季生活闘争については、33年ぶりに5%を超える高い賃上げ水準となり、取り組みにかかわったすべての方々のご奮闘に敬意を表したいと存じます。
 「未来づくり春闘」を掲げ、2023闘争では「転換点」「ターニングポイント」として、2024闘争では「正念場」とそれぞれ位置付けて取り組んできた結果、まさしく「ステージ転換」に向けた大きな一歩となったと評価しております。日本経済が賃金も物価も経済も安定的に上昇していくためには、「人への投資」と賃上げの流れを継続することであり、それによって「ステージの転換」につながっていくものと思います。
 一方、大手組合と中小組合の賃上げ率の格差が拡大したことは率直に受け止めなければなりません。格差是正のためにも、取引の適正化や労務費も含めた価格転嫁をより一層進め、製品やサービスも含めた労働の価値を認め合う社会へと転換していくことが重要ではないかと思います。2025春季生活闘争の取り組みがまもなく本格化します。これまでの取り組みや課題をしっかりと踏まえて、ステージ転換が確実となるよう取り組んで参ります。
 その上で、向こう1年を展望したときに、その指針の1つとして、連合と連合総研との共同研究の成果として5月から6月にかけて発表した『労働組合の未来』が挙げられます。
 研究会の座長を務めていただいた東京大学社会科学研究所の玄田有史教授は、コロナ禍において会社に労働者の声を代弁する代表者の有無によって、生産性の向上や仕事への満足度に違いがあることを見出し、労働組合の価値を評価しておられます。
 先ほど触れた春季生活闘争の取り組みを振り返ってみても、私は、「職場の声を代弁する労働組合がその声を経営者にぶつけるからこそ賃上げは実現する」ということを繰り返し伝えて参りましたが、そのことと相通ずるものがあります。
 雇用の流動化によって、転職を繰り返しながら、労働者個人が交渉することで処遇を向上させていくことは可能とする文脈で、労働市場改革を進めようとする声が聞こえますが、これは個別労使関係を基本とした発想であり、働く仲間が協力して労働環境や処遇を改善していこうという連帯や団結とは距離を置くものであり、玄田教授が評価する労働組合の役割とは正反対にあり、そのような考えに理解を示すことは困難です。
 自らの能力や実力によって、道を切り拓いていくことを否定するものではありませんが、その象徴とも言えるスポーツ選手でさえも、大方の選手は個人のためだけでなく、チームや自分を支えてくれる仲間のためという思いも背負って闘っていることは、この夏に開催されたオリンピックやパラリンピックでの各国選手の熱戦を通じて理解することができます。
 私たち働く者も、舞台は違えども仲間とともに“良い仕事”、“良い職場”、“良い会社”、そして何より“良い社会”を作りながら、成果に結びつけるための努力を続けています。
 その基盤の1つとして労働組合は存在するのであり、そのような期待を寄せられていることを自覚しながら、労働組合の価値を高めていく努力をしていかなければならないと感じております。
 そして、まさに今期の運動の折り返しとなる今、連合ビジョンに掲げた社会の実現をめざすために進めてきた、いわゆる「改革パッケージ」は5年が経過し、「連合ビジョン」の内容点検とセットで検証を行うこととされており、そのための1年として取り組んでいかなければなりません。
 検証にあたっては、社会や取り巻く環境の変化、政策実現の進捗などを見極めることが前提となっていることを踏まえると、『労働組合の未来』において考察されていることは大きなヒントになるものであり、しっかりと受け止めて参りたいと思います。
 「連合ビジョン」や「改革パッケージ」の策定のもととなった連合運動強化特別委員会の設置にあたり、当時の逢見会長代行は、月刊連合の中で「連合運動というのは、連合本部だけの運動ではありません。共通目標に向かって連合本部、構成組織、地方連合会が一体的に進めていくものです」と述べられ、連合に集う仲間の叡智を結集して、連合運動の魅力化を訴えられておられました。
 目下、連合運動の継承者である私たちがその歴史の最先端にいることの責任を自覚し、一丸となって運動をつなげていくことに力を注いで参りましょう。

<ジェンダー平等・多様性推進について>

 次に、ジェンダー平等・多様性推進について触れたいと思います。
 「またか」と思われる方も多いかもしれません。事実、「取り組みの趣旨や目的は、十分に認識されているのだから、数値目標をどのように達成するか、その手段や手法を具体的に示すべきだ」、という声を耳にすることがあります。
 私もそう願いたいところですが、果たして結果がついてきているとは言えません。先月末に連合ジェンダー平等推進計画フェーズ1の実行期間が終了し、そのまとめが速報として伝えられていることはご承知の通りかというふうに思います。細かな結果をここでお話することは致しませんが、3年間の時間的猶予があったものの、すべての組織で目標を達成できたとは言えない状況にあります。
 現在、フェーズ2の具体的内容について大詰めの議論を行っているところですが、ある意味、初歩的な目標も計画達成のためのステップの1つとして再び位置付けています。
 そして、計画達成のための最も効果的な手法の1つとして、トップリーダーによる宣言が必要との結論が示されている状況を見ますと、必ずしも趣旨や目的が共有され、腹落ちしているとは言えないのではないかというふうに思います。それを責めるつもりは毛頭ありません。ジェンダー平等の取り組みは、日本社会にこびりついたジェンダー不平等の価値観を解きほぐすという、歴史的な大事業でもあるのですから、簡単に物事が進むとは思ってはいません。そのため、各組織のトップリーダーが口酸っぱく、必要性を訴えることが重要な役割を果たすのだと思っていますし、そのためにもリーダー自身が納得して進めていく必要があります。
 単なる数合わせのために、外形を整えるだけの制度や仕組みを入れるだけでは本質的なジェンダー平等は実現されないばかりか、かえってジェンダー不平等をより一層、固定化させてしまう恐れがあります。のちほど、連合大学院の優秀論文としてご報告いただくJP労組の柏木さおりさんの論文には、女性役員が活躍していくために男性役員がやるべきこととして、「男性役員の意識の醸成やバイアスの解消」が必要であると指摘しています。具体的には、長い間、男性中心で運営されてきた組織の慣習を変える努力であったり、責任ある仕事を任せてみるマネジメントが必要ではないかということです。
 このようなことも含めて、環境を整えていくのがトップリーダーの役割です。したがって、トップリーダーの皆様には、ぜひ、ジェンダー平等の必要性について改めて考えていただき、環境整備に力を尽くしていただきたいと思います。フェーズ2はまもなく具体的計画として皆様にお示しできる予定となっておりますので、引き続き、ご理解いただきますとともに一つひとつ着実に進めて参りましょう。

<個別施策について>

 次に、個別の施策についていくつか触れたいと思います。
 その一つは、「働き方などに中立的な社会保障制度」についてです。連合の考え方については、8月22日の第11回中央執行委員会で確認いただき、以降、構成組織・地方連合会において丁寧な組織討議を実施いただきました。短い期間での意見集約となり、ご無理をいただきましたが、皆様のご協力にこの場をお借りして深く感謝申し上げます。いただいた多くのご意見を踏まえ、10月18日の第13回中央執行委員会での提起に向けて、連合本部にて準備を進めております。引き続き議論への積極的な参画をお願い申し上げます。
 二つ目は、この後、第4号議案としてご審議いただく「資産管理・会計処理規則」の一部改正と、賦課金の徴収についてです。会費負担に関して構成組織間の公平性を確保することは、連合結成時からの課題であり、1995年には地方交付会費が導入されました。さらに、組織財政確立検討委員会や連合運動強化特別委員会設置をはじめとして、様々な場で、数多くの幅広い議論を積み上げ、ようやくここに至りました。この間、建設的な議論に参加し、惜しみなく知見を提供いただいた数多くの皆様に敬意を表しますとともに、深く感謝申し上げます。中央会費制度への移行に向けて、課題・問題を抱え、あるいは不安を感じていらっしゃる組織があることは承知しております。連合本部として、全力でサポートして参りたいというふうに思います。構成組織の負担の公平をはかり、地域段階の運動の持続可能性を高めるという中央会費制度の目的の実現に向けて、今後ともご協力をお願いしたいと思います。

<政治の取り組み>

 最後に、政治について触れたいと思います。
 9月23日に行われた立憲民主党の代表選挙において、野田佳彦さんが新代表に選出されました。祝意を表しますとともに、立候補された皆様、関係者の皆様に敬意を表します。
 また、泉健太前代表におかれましては、前回2021年の衆議院選挙以降、党勢が厳しい中にあって、統一地方選挙や補欠選挙において着実に結果を残されてきました。代表として大変なご苦労をされてきたことへの労いと感謝を心から申し上げますとともに、引き続き連合運動へのご理解・ご協力をお願いできればというふうに存じます。
 さて、新執行部とは、本日早朝にトップ懇談会を行い、連合からは、次の3点についてお願いをして参りました。
 1点目は、衆議院の解散・総選挙について、今月27日の投開票が事実上固まったことを踏まえ、参議院岩手補欠選挙を含めて、早急に闘う態勢を整えていただきたいということ。
 2点目は、立憲民主党と国民民主党が12の小選挙区で競合していることを踏まえ、可能な限りの候補者調整を行っていただきたいということ。
 3点目は、「連合出身議員政治懇談会」からの申し入れを受けた、国民民主党との協議と、並行して党内手続きを早急に進めていただきたいこと、この3点です。
 これらについて野田代表と認識を共有することができました。総選挙まであまり時間はありませんが、立憲民主党・国民民主党・連合の三者で「心合わせ」し、「力合わせ」できる形をつくっていきたいというふうに思います。トップ懇談の場でも申し上げましたが、立憲民主党の代表選挙は、論戦も活発で、内容も骨太の印象であり、少なからず有権者は安心感や期待感を抱いていただいたのではないかと思っております。
 一方の自民党の総裁選挙は、過去最多の9名が名乗りを上げ、石破総裁に決まりました。選挙中の各候補者の主張を聞くと、やはり“政治を変えなければ"という思いがますます強くなりました。さまざまな問題が不明瞭なままとなっているにもかかわらず、総裁の交代という「看板のかけ替え」で、また自民党が勝つようなことはあってはならず、「何事もなかった」ことにさせてはいけません。
 その上で、石破首相は、今月27日の総選挙を明言されました。昨年から繰り返し囁かれてきましたが、いよいよ総選挙が行われます。連合は、「与党を過半数割れに追い込み、今の政治をリセット」するという明確な目標をすでに掲げています。目標達成と連合推薦候補者の全員当選に全力を尽くして参りましょう。立憲民主党と国民民主党、そして、構成組織・地方連合会・連合本部が一体となって総力を挙げた取り組みを展開することを誓い合い、すべての皆様の最大限の取り組みをお願いいたします。

<むすびに>

 むすびに、改めて第18期の前半の各種取り組みへのご理解とご協力に感謝申し上げますとともに、能登半島の災害対応へのご協力と、総選挙への取り組みをお願いし、冒頭のご挨拶とさせていただきます。引き続き、ともに頑張りましょう!ご清聴、ありがとうございました。

以上