労働協約って何?

労働協約は、「労働組合」と使用者の間における労働条件や労使関係のルールなどについての約束事のことです。合意した内容を「書面」にして、「労働組合」と使用者の双方の署名または記名押印があれば、労働協約としての効力が発生します(書面の名称や様式は問いません(「協定」「覚書」「確認書」等の名称で、メモ書きでもOK)。

労働協約は、就業規則や労働契約より優先するルールとされています(労働基準法96条、労働組合法16条)。

組合のない働く仲間にも
集団的労使関係の
ルールを広げる仕組み

労働協約の
地域的拡張適用って何?

労働協約は、基本的に協約を締結した労働組合の組合員と使用者だけの間の約束事であり、同じ企業に勤めていても、組合員でない労働者には適用されません。

しかし、次の条件を満たす場合には、組合のない働く仲間にも労働協約のルールが適用されることになります(=地域的拡張適用/労働組合法18条)。

前提条件

  1. 一つの特定された地域で
  2. 同種の労働者の概ね4分の3以上が
  3. 一つの労働協約の適用を受けている

必要な手続き

  1. 労働協約の労使双方または一方が申立て
複数の都道府県
の場合
  1. 【中央労働委員会】
    の決定
  2. 【厚生労働大臣】
    の決定・公表
都道府県内
(複数の市区町村)の場合
  1. 【都道府県労働委員会】
    の決定
  2. 【都道府県知事】
    の決定・公表
組合以外にも労働協約の
ルールが適用(=地域的拡張適用)

“労働委員会”は、労働組合や組合員のサポートや、労使関係を正常化させるための働きかけを行うために、公益委員、労働者委員、使用者委員の3者でつくられる機関のことです

  • 同種の労働者…客観的に明確な基準が定められ、その基準に該当する労働者
    (例)「大型家電量販店」に雇用される「無期フルタイム労働者」

最近の適用事例

1.茨城県の大型家電量販店【UAゼンセン】

適用地域 茨城県全域
適用期間 2022年4月1日~2023年5月31日
適用労働者 「大型家電量販店」に雇用される「無期フルタイム労働者」
適用内容 年間所定休日数の最低日数を111日以上とすること
申立者 ヤマダ電機労働組合、ケーズホールディングスユニオン、デンコードーユニオン
カバー率 協約適用者:633名/同種の労働者:693名=91.3%
決定・公告日 2023年6月1日(茨城県知事決定)
決定等の全文

2.青森県、岩手県、秋田県の大型家電量販店【UAゼンセン】

適用地域 青森県、岩手県、秋田県の全域
適用期間 2023年6月1日~2025年5月31日
適用労働者 「大型家電量販店」に雇用される「無期フルタイム労働者」
適用内容 年間所定休日数の最低日数を111日以上とすること
申立者 ヤマダホールディングスユニオン、デンコードーユニオン
カバー率 協約適用者:485名/同種の労働者:537名=90.3%
決定・公告日 2023年4月11日(厚生労働大臣決定)
決定等の全文

当該組織からの取り組み報告

1.取り組みの経緯・目的・概要

家電量販店業界における組織化が進み、同じ産別に集ったことで組める環境が整いました。

「UAゼンセン流通部門家電関連部会」は、地域や対象労働者、労働条件の設定などの具体的内容を協議し取り組みを進めました。UAゼンセンとしては、集団的労使関係を基軸とした産業別労働組合の役割の実践、企業別労働協約の社会性を高めること、公正労働基準の確立、公正競争の実現を推進する取り組みとしてこれを支援しました。

2.苦労した点/工夫した点

申し立て時、家電量販店業種は、UAゼンセン加盟の企業別労働組合数が58組合、組織人員は合計で7万人程度となっており、いずれの労働組合もユニオンショップ協定を結んでいます。家電量販店業界内では、売上高上位10社中の8組合が加盟し、組織率は推定で80%まで至っていたことから、地域や同種の労働者を定義すれば地域的拡張適用の実現性が高い状態にあると判断しました。

業界としても、厳しい合理化を乗り越えながら企業合併やグループ化が進み、業界再編が進んだ状態となっていますが、激しい競争で労働条件の改善については一進一退を繰り返し比較的立ち遅れている状況にあります。

そのような中で、大手家電量販店の労働組合が企業別の枠を超えて今回の運動に取り組み、結果を出したものの労働協約には有効期限があることから、これを更新する場合はどのようになされるのかということ、県を跨いで適用することはできるのかといった新たな論点も出てきました。茨城県における拡張適用の更新と北東北三県での適用決定はこれに一定の答えを出すことが出来ました。

3.今後に向けての課題

日本において、労働協約の地域的拡張適用を広めていくために、この間の取り組みを通じての課題認識は以下になります。

申立てから決定までの間に労働委員会での決議が必要になります。決議までには一定の時間がかかる一方で、労働協約には有効期限があるため、決議・決定時には労働協約の有効期間が短くなってしまいます。また、労働組合法18条には、更新についての取り扱いの記載がなく、同様の申し立て内容であった場合にも常に新規の申し立ての扱いになり、結果、決定までには一定の期間を要するといったことも課題になります。

労働委員会での決議においては、同法18条に「2.労働委員会は、前項の決議をする場合において、労働協約に不適当な部分があると認められたときは、これを修正することができる」との記載があるが、これは「要件が成立しているか」を審議するものと捉えることが妥当であると思われるが、一方で「必要性・妥当性」にも論議が及ぶケースもあり、労働委員会における「審議内容」についても課題が残ると考えています。

当該組織からのメッセージ

UAゼンセンからのメッセージ

この法律は、工夫次第で活用できる場面が多いと気づかされました。

組織化を進め、労使が課題を共有すれば、労働者の種類や定義付け、労働条件項目、地域の組み合わせで活用の可能性は無限大です。労働者の横断的な連帯を育み、労働組合の社会性を高めるために積極的に活用すべき法律だと思います。

以下にこの間で感じた、取り組みの意義をまとめておきます。

  1. 企業別労働協約の社会性
    集団的労使関係を基軸とした産業別労働組合の運動により、企業別労働協約の社会性を高める
  2. 組織拡大活動の実効性の再確認
    地域内の適用対象となる労働者の大部分が労働組合員として組織化されているという状況が労働協約のカバー率を高め、地域に働き方のルールを作ることにつながった事例であり、組織拡大と集団的労使関係の意義が高まった。
  3. 労使関係の重要性の再認識
    関係する当事者の一方である経営者の理解が示されたことによって実現に至ったものであり、労使双方に建設的で健全な労使関係を作ろうとするインセンティブが働く事例となった。
  4. 未組織労働者の保護
    未組織労働者へのしわ寄せやソーシャルダンピングの防止となる公正労働基準に基づく公正競争の実現につながり、労働者保護の基盤となるチャンネルの存在を改めて示すことができた。
UAゼンセン家電関連部会からのメッセージ

家電関連部会の中で、お互いの労使関係や労働協約の内容を共有し、労働組合法第18条をどのように活用するかを論議し、申立てに向けた調査の段階において苦労した事もあったが、それ以上に有意義で画期的な取り組みとなりました

一定の地域での拡張適用ではありましたが、全国展開の企業が多い業界ということもあり、業界全体として年間所定休日を増やすことにつながりました。今回の拡張適用に参加できなかった仲間の組合労使のみならず、労働組合のない企業にも波及することができ、業界の中での最低基準が示されたことがその後の休日日数の引上げにつながりました

関係する労働組合が連携し、「同種の労働者をどのように定義するのか」、「どの労働条件について一の労働協約にまとめるのか」、「大部分の労働者にその労働協約が適用される地域があるか」の三点を検討し組み合わせることによって拡張適用の可能性はたくさんあると思います。企業別労働組合の枠を超える連帯で拡張適用の輪を広げていきましょう。

3.福岡県福岡市の水道検針員【自治労】

適用地域 福岡県福岡市全域
適用期間 2024年4月1日~2025年3月31日
適用労働者 時間給制水道検針員
適用内容 ① 1時間あたりの最低賃金額(1,082円)、標準賃金の設定
② 裁判員休暇の有給化
③ 労働保険・社会保険に関する権利の確認
申立者 自治労福岡市水道サービス従業員ユニオン
カバー率 協約適用者:77名/同種の労働者:106名=72.6%
決定・公告日 2024年1月5日(福岡県知事決定)
決定等の全文

当該組織からの取り組み報告

1.取り組みの経緯・目的

自治労と、水道検針業務を受託しているヴェオリア・ジェネッツ㈱および第一環境㈱は、いくつかの地域で労使関係があり、労使の課題だけではなく、業務委託の課題も適宜協議してきました。

2022年4月、両社と意見交換するなかで、自治労加盟労組のある福岡市において、受託している会社で一緒に集団交渉ができないか、との話しがありました。それを受けて、集団交渉の前提として労働条件の最低基準をおきたいと考え、同年7月に労働協約の地域的拡張適用を提案しました。

公共サービスの業務委託においては、競争入札制度が過度な価格競争によるダンピング受注につながってきました。ダンピング受注を規制しなければ、生活できる賃金を含む公正な労働基準を確立できません。この認識は、ヴェオリア・ジェネッツ㈱と第一環境㈱とも共有できました。

2023年1月、申立人組合の自治労福岡市水道サービス従業員ユニオンとヴェオリア・ジェネッツ㈱および第一環境㈱は、福岡市の水道検針員に関する労働条件の最低基準を定めた労働協約を締結します。

2.苦労した点/工夫した点

労働協約の地域的拡張適用を申立てするにあたって、注意した点は、①定義づけ、②組合加入の組織率と労働協約のカバー率です。

①定義づけは、「一の労働協約」を成文化するための肝であり、対象となる労働者、地域、労働条件を特定しなければなりません。たとえば、賃金は歩合給を併せるため、2社の雇用される組合員の実態を会社と突き合わせて、「一の労働協約」に記す最低基準を定義づけしました

②労働協約のカバー率は、地域的拡張適用を申立する労働協約が、労働組合法の趣旨から申立時に大部分(おおむね3/4以上)をカバーしていることが求められます。申立人組合は、オープンショップのため組織率が課題で、組織率を向上させるべく組合加入活動にも取り組みました

3.今後に向けての課題

2024年1月5日、労働委員会の決議を受けて、福岡県知事は福岡市水道検針員に関する労働協約の地域的拡張適用を決定しました。この決定による拡張適用の期間は、2024年4月1日から2025年3月31日です。今夏以降、適用期間を更新する申立てが必要になります。

また、他の公共サービスの業務委託や指定管理者でも、労働協約の地域的拡張適用ができないか追求していきたいと思っています。

当該組織からのメッセージ

自治労福岡市水道サービス従業員ユニオン(執行委員長 大町浩文)からのメッセージ

福岡市における水道検針は、市内を3ブロックに分けて、別々の事業者に委託しています。その中の一つで、ダンピング受注が行われ、水道検針員の賃金が大幅に引き下げられたことが問題でした。

労組法第18条第1項に定める要件のうち、「一の地域」を福岡市全域、「同種の労働者」を水道検針員(時間給制水道検針員)としたのですが、他の要件の「大部分」と「一の労働協約」は、かなり高いハードルでした。

組合は、各水道営業所では過半数組合ではありませんが、水道検針員だけを見ると、7営業所中4営業所で、労組法第17条の要件である組織率75%以上をクリアしています。これにより、労働協約のカバー率は72.6%となり、労働委員会は「同種の労働者の大部分が一の労働協約の適用を受けるに至った」と判断しました。カバー率72.6%は、これまで地域的拡張適応が決定された事例の中では最も低いものとなっています。

「一の労働協約」はさらに高いハードルでした。使用者の理解と協力が欠かせないだけでなく、複数の使用者と組合が連名で締結する必要があったからです。日本の労働組合は、企業内組合ですから、企業の枠を超えるこうした取り組みの経験はほとんどありません。企業内組合だけでは限界があります。今回の取り組みも産別組織である自治労と連合の支援と協力は欠かせませんでした

また、「一の労働協約」は、一の地域内で従業する他の同種の労働者及び使用者にも拡張適用されることから、一つ一つの定義の明確化など、企業内の労働協約に比べより法律的な内容が求められます。今回の場合、第一人者である古川景一弁護士に申立組合の代理人になっていいただき、労働協約書及び申立書の作成を主導していいただいたことが、申立てを可能とし、県の決定に繋がったと言っても過言ではありません。

今回の地域的拡張適用は、非正規労働者の賃金を対象に、また公契約に関わる使用者及び労働者に適用される初めての事例です。多くの産別・単組のこれからの取り組みの参考になればと思います。